兵庫田中畜産株式会社 田中 久工(たなか きゅうこう)さん
〒669-2223 兵庫県丹波篠山市味間奥
経営品目:KOBE BEEF・但馬牛
〜将来を考えて、牛飼いとしての誇りを守り続ける〜
—— お父様から引き継いだ畜産事業を拡大されると同時に、働き方も今までとは違った時代に沿った形態へ改革をされている田中さん。全てが牛ファーストで情熱を持って励んでおられます。——
「但馬牛・丹波篠山牛・KOBE BEEFの希少性」
皆さんはブランド牛が国内でいくつくらいあると思われますか?実は約180種もあるのです。しかし、北海道の牛も三重県や沖縄県の牛も産地名の違いだけであって牛の血統に大差はないため、簡単に人工授精して血統が混ざってしまうことがあります。
一方で、但馬牛は全く別の血統で純粋な和牛です。その理由は、兵庫県内の畜産に関わってきた先人の方々が但馬牛のことを大好きで大切に守ってこられたから、過去に遡っても他県の牛と交配せず外国種も混入していないのです。書物にも1300年前からその存在が記されています。長年、大切に受け継がれている先人の想いを牛飼いである僕らが深く理解し、後世に残す取り組みをこれからも大事にしなくてはいけません。
但馬牛は他県の牛よりも弱く、体も小さいです。しかし売上にすると2倍になる。それだけ重宝されるには理由があります。世界の中で、兵庫県や神戸と言っても通じませんが、「KOBEBEEF」と言えば海外の皆さんもご存知であるのはやっぱりそれなりの理由があるからなのです。
「市場の仔牛の出荷頭数が減少している厳しい現実」
但馬牛の仔牛市場では、出荷される仔牛の頭数が年々100〜120頭も減少しています。若手の畜産農家も頑張っておられますが、ほとんどの畜産農家は70代80代です。兼業農家も多く、10年後には繁殖農家は大きく減少し育てる仔牛が手に入らなくなる可能性が高いです。自給自足とまではいきませんが、自分のところで必要な牛は自分のところで生産する。仔牛から販売までを市場に頼らない生産を確立しようと畜産事業を拡充しました。
仔牛から親牛にするまでには半年かかります。牛は人間と一緒で十月十日と妊娠期間も長く1頭しか産まれません。生まれた仔牛が肉用として市場に出るまでには30ヶ月かかります。仔牛から販売までトータルで考えると4・5年の投資をしてやっと市場に出すことができます。牛舎や餌代などを考えると誰でもすぐに踏み込める世界ではありませんが、将来を見据えて今から始めないといけないことだけは明確です。
「牛も人も大事にする」
畜産業界は365日、年間を通じて休日というのはありません。生きもの相手なので当たり前のことですが、特に但馬牛は弱く繊細で育成にも技量が必要です。今の一般企業に求められている「週休2日・8時間労働」の条件など満たせるはずがありません。小さい頃、家族で出かけようとするときに牛の様子がおかしいからと急に予定が変わることも何度もありました。そんな父の働く姿を見てきた自分が畜産業界に携わるようになったからこそ、改善しなければいけない点もみえてきます。
僕は家族も大切にしたいという思いを強く持っています。その思いを実現するために、現在は法人化して現場を6・7人で回しています。今後は今よりも牛を増やす予定なので、人も併せて増員するつもりです。今の時代に合った働き方を畜産業界にも確立することができないと次に継承することもできません。うちで働いてくれている従業員の皆さんは、出身が神戸や大阪など地元ではない方ばかりですが、牛を大切にしてくれて一生懸命頑張ってくれています。本当に有り難いかぎりです。
「安心安全で真心こめた商品をお客様へ」
株式会社アグリヘルシーファームの原さんとは、農業経営について色々と話をする中で目指す思いに同じところがありました。
日本の農畜産物には農薬などへの規制や条件が数多くありますが、その条件が海外で通用するかというと必ずしもそうではありません。牛の餌に抗生物質をいれることはヨーロッパをはじめ、多くの先進国では通用しないのです。当社は海外に牛を輸出していますし、召し上がっていただくお客様も日本人だけではありません。海外の方にも通用する品質を提供するためにはオーガニックでやっていくしかない、牛の餌となる草に抗生物質や薬の入ったものでは意味がない、原さんとはその部分で意見が一致したこともあり耕畜連携の取り組みを行うことになりました。安心安全な餌を食べた牛の堆肥が、安心安全なお米や黒枝豆になる。耕畜連携の取り組みによってアグリヘルシーファームさんにとっても、当社にとってもいい効果が生まれています。
一方で、抗生物質の入っていないオーガニックの餌では牛の体調の変動も激しく、病気にもかかりやすくなります。原さんの取り組む農業と同じように手間暇がかかる分は技術でカバーしていく。家族にも安心して食べてもらえるものをお客様にお届けすることが当社の強い思いです。
「丹波篠山が大好きだからこそ、自然に感謝できる幸せ」
私たちは、どこにも負けない但馬牛・KOBEBEEFをお届けすることを信念として日々、取り組んでいます。僕はこの丹波篠山が大好きです。この寒暖差のある気候風土が美味しい黒枝豆やお米を育んでいます。それは畜産に関しても同様に言えることです。この故郷で牛飼いができることを幸せに感じます。
畜産事業には地域の理解が必須です。今回の事業拡大に伴い様々な地域で事前にお話させていただきましたが、隣村の方々にもご理解をいただくことができ山裾に新畜舎を建設しました。新畜舎の周りには水田や畑がたくさんありますが、「田中畜産さんが川上で事業をされても大丈夫だと信頼しているから」と快く開業させていただけました。地域のみなさまに信頼いただいていることに感謝して、今後も自治会活動には貢献させていただきたいと思っています。人生もそうですが、皆さんの力や理解をいただいて常に謙虚でありたいと思います。
—— 今の自分が満点では決してない、と様々な角度からの視点を持たれながら畜産を営まれている田中さん。世界の需要や情勢も敏感に感じながら、まだまだ知らないことをどんどん吸収して小さいことからコツコツ頑張っていきたいとお話しくださいました。——
2024年9月10日