農業はじめの一歩20

農業はじめの一歩20

瀧山 玲子(たきやま れいこ)さん

現住所:兵庫県丹波篠山市吹上

経営品目:水稲・もち米・黒大豆・山の芋・ピーマン・他野菜

経営面積:120a

 

〜丹(あか)い稲穂の波に思いを馳せ、「今」に光の当たる農業を!〜

 

—— 「農業と向き合う楽しさ」の虜(とりこ)となり、興味のあることには探究心と実践力をフル稼働される瀧山さん。丹波篠山特産の山の芋の栽培や独自の観点からの新たな取り組みもされています。——

 

 

何も知らないところからのスタート

当初は、子育てをしながら草取りを手伝う程度でした。義父に「畑から蕪(かぶ)を取ってきて」と言われ、丸大根を持って帰りみんなで笑ったほどです。「大切に耕してくれた田畑を守っていきたい!」「皆さんに喜んでいただけるような作物を手掛けたい!」という思いから、本格的に農業を始めました。畝立てすら分からない私でしたが、主人は会社員をしながら休日に手伝ってくれました。大変だったと思いますが、その助けがあったからこそのスタートでした。

 

 

 

 

山の芋の栽培の難しさに魅了され

丹波篠山市へ嫁いで感じたのは、丹波篠山は昔からの特産物がしっかりと受け継がれていることでした。その中で「山の芋」は作っていなかったので、ぜひやってみたいと「山の芋スクール」に通いました。今も試行錯誤を繰り返しながらですが、少しずつ形の良いものが出来始めました。良い種芋を作るにも年月が必要です。種芋選びやカットの仕方がしっかり出来なければ、土壌管理や栽培まで辿り着けません。違う質の土が近くにあるだけで、山の芋の肌質が違ったりもします。山の芋農家さんが減少しているお話を耳にすると、とても寂しい気持ちになります。丹波篠山で受け継がれていかなくてはいけない大切な農産物の一つであり、特有の粘りは他に類を見ません。繊細で手間もかかりますが、そこが面白く「来年こそは!」と頑張っています。

 

「丹波」の名の由来からお米を見直すきっかけに

お米の消費量の低いことが、農業を生業として成り立たせにくい原因の一つとされています。なんとかお米を見直して欲しいと切に願っています。私たちの住む「丹波」の名の由来の一つに「丹(あか)い(※1)稲穂が波のように風に揺られる風景」から「丹波」となったという説があります。昔この地域では、古代米の赤米を多く栽培されていたことからこのように言われているそうです。残念ながら、当時栽培されていた赤米種は入手できませんでしたが、それに近い「神丹穂(かんにほ)(赤紅)」の種を分けていただきました。赤い穂の美しさを知っていただきたいと、実が入る前に刈り取ってドライフラワーにして販売しています。お客様からはその美しさはもちろん、ストーリー性にも触れて喜んでいただいています。そこを入り口として、お米に興味を持っていただき、食へと結びつけることができればと考えています。

1丹(あか)い:和色の「赤丹(あかに)」

 

 

 

 

手間暇が生み出す第一歩!

古代米の栽培は6年目を迎え、今では10種類ほどを手掛けています。全て手植えです。品種によって穂のつく時期が異なるので、種類が混ざらないように手で刈り取ります。タネを残すために塩水に漬けて良い種子を選ることも昔ながらの作業です。手間暇がかかるからこそ、良いものがお客様にお届けできます。少しでも、お米に注目していただける第一歩となります。ほんの一時ですが、夕日に照らされた赤い穂が風に揺れる光景を見ると癒され、「よし、頑張ろう!」という気持ちなります。

 

 

 

 

即実践できることが農業の醍醐味!

農業に取り組む中で、「自分にあった作物」を探しています。私に向いていて、面白いなと感じたのは「茄子」です。最近では様々な種類の茄子があり、紫色や白色、翡翠(ひすい)色、大きさや長さも違います。見慣れない茄子を手に取っていただくために、「おすすめの調理方法」を添えて出荷しています。食卓に気軽に取り入れられる主婦目線の工夫は大変好評です。赤米のドライフラワーもそうですが、自分の取り組みたいものにすぐ実践できることが楽しくて農業をしています。

 

もったいないという発想からの土造り!

農産物を作った中で、籾殻などの不要物がよく出ます。廃棄することは簡単ですが、収穫までに色々と手を加えていたものですから捨てるのは勿体無い!と感じました。自然のものを肥料にすることで人にも環境にも優しい作物の提供ができます。安心安全でおいしい野菜を、小さいお子さんをお持ちのご家庭やこども食堂にお届けできればと思っています。

 

 

 

 

丹波篠山の農業の未来のために

農業は、ひらめきや自分の興味のあるものが即実践できる非常に魅力あるものです。また、丹波篠山の農産物は全国的にネームバリューもあります。しかし、現状は農業だけで生活していくことは容易ではありません。新規就農を志す方のためにも、今農家をしている私たちの手で「生活できる農業」の基盤をしっかり構築してくことが重要だと思います。今ある農地を守るために、新しい挑戦と受け継ぐ努力を精一杯、そして楽しみながら続けていこうと思います。

 

—— 農業と向き合っておられる瀧山さんの取り組みは多岐にわたります。今後の農業を見据えたお考えは俯瞰(ふかん)で捉えながらも独創的です。その一つ一つの工程を丁寧にこなしておられる姿は、丹(あか)く揺れる稲穂のように輝いています。——

 

202211月)