農業はじめの一歩6

農業はじめの一歩6

湊 友加(みなと ゆか)さん(43 歳)

これからの夢は「丹波篠山」の特産品を守り育てること

・現住所
兵庫県丹波篠山市垣屋163 番地1

・経営品目
水稲(8ヘクタール)
黒大豆(12ヘクタール)
黒大豆枝豆(1ヘクタール)
大納言小豆(7ヘクタール)
山の芋(70アール)
野菜多品目(50アール)
ハウスぶどう(40アール)
丹波栗(30アール)
麦(13ヘクタール)ほか

・経営面積
30ヘクタール

・運営組織、体制
農事組合法人(平成13年1月設立、正社員3名、パート2名)

 

両親が家庭菜園から始めた農業に家族みんなで取り組む

-就農のきっかけを教えてください。
有機農業をやろうと最初に言ったのは父でした。それに共感して始めたんです。農業は未知の世界だし、自分が愛情かけて育てたらいいものができる、私はそんなことを今までやったことがなかったので、夢に溢れていたと思います。
農業のことを何も知らなかったから、逆にチャレンジできたのかもしれません。
もともとは、両親が家庭菜園規模で農業を始めまして、当時は水稲と野菜を少しずつ作っていました。法人化するときに、父から「これからの時代は女性の時代だから、お前が代表を務めたほうがよかろう」と言われました。法人名の「なちゅらるはーもにー」を名付けてくれたのは、建設業をしている兄です。
「自然との調和で『ナチュラルハーモニー』にしたら?でもカタカナだと普通にさらっと読んでしまう。平仮名だったら珍しいから『あれっ?』と注目して見てもらえるんと違う?優しい感じもするし」と言ってくれて今の名前になりました。マークは父のアイデアです。「いま作っている作物をデザインに入れたらどうか」と。父にも繊細なセンスがあります。私にはないですが…(笑)。
兄のひらめきと、父のアイデアがあって、みんなに協力して助けてもらいながら、いただいた名前です。

 


法人マークには、作付けしているたくさんの農産物が描かれている。

 

安心安全の野菜づくりで、篠山の特産品を守り育てたい

―現在作られている品目とこだわりのポイントをお教えください。
できるだけ農薬は使わずに安心安全にこだわって作っています。水稲、黒大豆、黒大豆枝豆、大納言小豆、山の芋、ハウスぶどう、そして野菜は多品目です。たい肥は自家製で、鶏糞・米ぬかなどで作ります。
いま作っている品目には、地域の特産物が多いです。黒豆や枝豆、山の芋をやる人が高齢化で農業をやめていったり、減りつつあるので、こんないいものがあるのにもったいないと思い、始めました。手作業では経営面積が増やせないので、機械作業ができるもので経営面積を増やしていきました。篠山市のように、こんなに特産品がいっぱいある地域も他にはないので、なくしたくない
思いが強く、法人になってから地域の特産物を作っています。

 

お父様がチャレンジしている新しい作物、コーヒーの樹がビニールハウスに並ぶ。

野菜を買ってくれた人が丹波篠山を見に来てくれるような「繋がり」を作りたい

―今後の展望について教えてください。
今後の展開としては…「現状維持」ですね(笑)。経営面積がいま以上になると草刈りなどに手がかかりますし、そうなったら作物の方が疎かになるので、今ぐらいの経営面積が自分のいっぱいいっぱいかな、と。
あとはもっと篠山に都会から人が来てもらえるようなこと、例えば農業体験などやっていきたいです。野菜やお米を買ってくださっている方にホームページの作成が得意な方がいて、ネット販売のコラボ話もでています。野菜を買ってくれた人が、そのつながりで「篠山市ってどんなところ?」と思って、来てくれるような展開ができたら。もっと「なちゅらるはーもにー」をいろいろな人に知ってほしいな、と。そういう「繋がり」がいいなと思います。
あと、農業を始めて思ったのは「子どもに仕事をする姿を見せられるのがいいな」ということ。お父さんが子ども行事に参加できないときに、子ども自身が「お父さん頑張って働いてくれてるから(来てもらえなくても大丈夫)」と言ってくれたりするんで、ありがたいですね。夫とは「よその子どもたちも農業に興味を持ってくれたらいいよね」と話しています。むかしは「農業」という仕事は評価されにくかった時代があるかもしれませんが、いまはみんながかっこよく農業をしているから、農業者がみんなの目標になれたらいいですよね。

 

女性ならではの農業や子育ての悩みも、人と繋がりと交流で乗り越えていく

―農業分野における丹波篠山の『価値』について教えてください。
人のつながりですね。篠山市には、農村女性連絡協議会という女性会員グループがあります。JA 女性会の会長さんや、女性農業委員さん、生活研究グループメンバーの集まりです。頑張る女性のつながりがすごく強くて、それに対して男性もがんばれと後押ししてくださるあったかい地域だな、と感じます。他地域の会合など出ていったときに「篠山っていいところだよね」と言われます。
女性ならではの悩みというと、私なんかはメカに弱いのですが、女性が少しでも男性に頼らなくても農業をしていけるための講座として、トラクターや草刈り機の操作方法等の研修を企画しています。また、農業は時間で区切られる仕事ではなく、農繁期は特に負担が大きくなりますから、女性が農業を生業にしながら子育てしていくときの悩みなんかを「こんな時、大変だよね」と話し合える場にもなっています。
また、兵庫県には、農業で兵庫県を元気にしようと集まった女性経営者のグループ「兵庫アグリプリンセス」があります。3 か月に1 回、養父市、宍粟市、淡路市などメンバーがいるエリアに行って、圃場をみたり、女性ならではの仕事や子育ての悩み、地域でのやり取りのことなどを相談できる場になっています。そのほか、マルシェを企画したり、大学とコラボして食育として調理実習に取り組んだり、いろいろな活動をしています。いまは、作業服や長靴など「こんなものがあったらいいんじゃない?」と思うデザイン提案等をしています。
メンバーは、地域も、作っている作物も、農繁期も違いますが、3 か月に1 回会いに行って、いろんな刺激と元気をもらって帰ってこれるし、みなさんと和気あいあいと交流しています。
あとはやっぱり、黒豆。東京に篠山市の特産品を売りに行くと、篠山市を知っている人が多いと聞いています。産地として知名度も結構ある。篠山市産はやっぱりおいしい!と思ってもらえるようです。

 

壁にぶち当たったら、必ず助けてくれる先輩たちがいる

―「新規就農を目指す人にメッセージをお願いします」
たぶん夢を膨らませて期待大きく入ってこられると思うんですが、自然のこと、経営のこと、資金のことで壁に当たることがあると思います。そこで現実を見てすぐに諦めてしまうんじゃなくて、なにせ篠山には農業をやっている先輩がたくさんいるから、そういう人を頼って頑張ってほしいです。
先輩たちには、認定農業者連絡協議会などいろいろなグループがあって、若い世代は団結力も強い。いろんな取り組みに一歩踏み込めない時でも、「やってみいや!」、出荷先も「一緒に出さへん?」と声をかけてくれたり…。
「自分だけが」じゃないので、篠山市は農業がやりやすく、新しい人も入ってきやすいと思います。もし、そんな繋がりがなかったら、孤独の中で農業をやらなければならないですからね。
例えば若手農業者のLINE グループがあるんです。そこでは「台風が来て、いま豆の状態がこんなんやけど、どうやろ?」と尋ねると、意見を言ってくれたり、教えてくれたりします。「自分の農法は教えない」ではなく、「こういうのを使ってみたら?」とか情報交換ができる場があるんです。
新規就農の人がいたら、みんなが気にかけてくれて、声がかかると思います。絶対に誰かが助けてくれるし、意見もくれます!ぜひこの篠山で「農業」にチャレンジしてほしいですね。

 

圃場の前でほほ笑む湊さん。篠山市の特産品、山の芋の葉が青々と茂る。
(2018 年9 月)