農業はじめの一歩23

農業はじめの一歩23

丹波篠山 𠮷良農園  𠮷良 佳晃さん(きら よしてる)さん

現住所:〒669-2124 兵庫県丹波篠山市不来坂52

経営品目:野菜・ハーブ・黒大豆・黒大豆枝豆・小豆・白大豆・不来坂吉良大豆

経営面積:2.5ha

H Phttps://kira.farm/

 

〜農から里山を次世代に継承するモデルづくりへの取り組み〜

 

——一流の料理人に認められる有機野菜作りで、その味をわかっていただける方に野菜を届けることに丹波篠山𠮷良農園の真髄があると語られる𠮷良さん。そうした農業を続けていける環境づくり、人づくりを目指した新しいプロジェクトも指導されています。——

 

 

 

 

「父から継承した農園」

父が1995年に始めた農園は、初めは慣行農法でしたが25年前に有機農法に移行しました。直売所での販売から個人宅配を経て、現在では料理店をメインに野菜を卸すようになりました。丹精込めて作った野菜を食べていただくなら、食のプロの方々にも食べていただきたい、使っていただいて自身の農業を証明したいという強い意志が父にはありました。私自身は、小さい頃から駆け回っていた場所で生活していきたい、環境を守っていきたいと考えた時に、2016年から父の農業を手伝うようになりました。当時は京都から通っていたのですが2018年に家族も丹波篠山市に引っ越してきて2020年に事業を承継しました。父のこだわりを理解しながらですが、経営となると本当に苦労の連続でした。

 

「料理店に野菜を卸すということ」

シェフのまな板を汚すことがあってはいけない。虫や土など梱包には非常に気を遣います。キッチンペーパーで傷つけないように拭き上げたり、葉物も1枚1枚収穫したりとその手間は膨大です。また、シェフごとに好みの野菜を届けなくてはいけません。お取引させていただいている店舗は約30件ほどですが、ピーマン1つでも大きさや熟成具合などシェフの好みに合わせて出荷しています。栽培品種は50種ほどですが、サイズ、部位を掛け合わせると出荷商品数は300品弱にもなります。現在、多品目の野菜を1ha栽培していますが、今の方法ではこれが限界に近いと考えます。シェフに安定してお届けする、地域農業のこれからを担っていくためにも一皮むける必要があると感じ取り組みを進めています。

 

 

 

「オーガニックに魅了され」

有機栽培は、狭い意味では化学的に合成された農薬・化学肥料を使用しない農法ですが、本質的には地域資源に基づき持続的な農業を営んでゆくために、諸条件を「有機的」に組み合わせていく農法です。化学的な部分を小さく、その土地の地理的と物理的、生物的な条件という3つの制限を活かしていく栽培です。そのうえ天候や気候にも左右されます。限られた条件の中から解を見出す緻密なところが私は大好きですし、経験値や勘に加え微生物や栄養素などの科学的知識とのコラボレーションを通じて、地域の特色を活かす、生態系を残すということに魅力を感じます。利益を考えると、特産品である黒枝豆に特化するという方法もあるかと思いますが、多品種を土地に合わせて上手く回していく能力、地域資源を適切に活用していく視点が失われないように残していくことが丹波篠山𠮷良農園の営農方法の第一だと考えています。

 

「ミチのムコウプロジェクトの立ち上げ」

とはいえ、農業だけを考えると自身の力では限界があります。農業を続けていけるという前提には、山や水路、畦を含めた自然インフラ整備、機械や拠点などの設備インフラ投資、何よりともに働くチームの存在が不可欠です。私たちがやっていることを知っていただく活動の場、尚且つ参加いただく皆さんにも喜んでいただけることを細部まで広げようと「ミチのムコウ」プロジェクトを立ち上げました。ライトな体験参加からSDGsを学びたい大学生、里山で仕事をつくりたいと情熱をもった方々まで、全体のビジョンに賛同し、協働していきながら未来を描く、農業の枠を超え農村はおもしろい!という輪がミチのムコウまで広がっていくことを目指しています。そして助成金がなくても運営を続けていける仕組みづくりが重要です。有機農業もその一つ。身につけていただく為には、続けていくことが非常に大切なのです。

皆さん興味があって参加したい思いをお持ちなんです。でもどのように関わって、どこまでやればいいのかわからない。私たちがそのフィールドを整えることで、人との繋がりやその場所で参加することを有意義に感じていただければと思います。今年度も子育て世代の30代、40代の皆さんに多くご参加いただきました。今後も更に発展できるように力を注いでいきます。

 

 

 

「耕作放棄地の活用と里山整備の拡大を!」

里山という環境で農業に取り組みたい方がいらっしゃれば、研修生も受け入れていこうと思います。2〜3年後に任せていければいいなと思う場所もあります。同じ志のメンバーを増やして、みんなで楽しくやっていけるよう力を合わせていければと思います。

多品種野菜を軸に、今後は黒枝豆の栽培面積を増やしていこうと思っています。海外の取引の話も進んでいるので、拡充していきます。休耕田の活用や新たな農地をお借りして地域の担い手として認めていただくこと、お客様に安定してお届けすること、そして紡いでこられた農村環境をみんなで伝えていくこと、目標は大きいですが一つ一つ丁寧に取り組んでいきます。

 

 

 

——前職は化学メーカーの開発職。タッチパネルに使用される透明電極や光フィルムの設計・開発を担当されていた𠮷良さん。緻密で繊細な作業や本質は何か?を常に意識する姿勢は、今の農業に活かされているとのこと。一つ一つの作業に細やかさと経営計画を立てられることを兼ね備えた人が農業には向いていますね、と言いつつ自分ももがきながらの真っ最中だとか。何より前向きに楽しめる人が一番(笑)と語っておられました。新しい活動に情熱を注いでおられる𠮷良さんの元に仲間が集まられることと思います。——

 

20231122