農業はじめの一歩8

農業はじめの一歩8

農事組合法人丹波たぶち農場 田渕 真也(たぶち しんや)さん(42歳)

丹波篠山ブランドを再考して、他の産地に負けない品質、技術、流通を目指す
・現住所
兵庫県丹波篠山市口阪本

・経営品目
水稲、黒大豆、大豆、小豆、山の芋、いちご、その他(観光農園)

・経営面積
70ヘクタール

・運営組織、体制
農事組合法人(平成14年2月設立、正社員10名、常勤パート3名、季節ごとの臨時パート数名)

圃場の前に立つ真也さん。20 年前は20ヘクタール だった農地は今では70ヘクタール まで拡大した。

就職難の時代。「まずは親父の農業でバイトでもするか」で始めた農業

―就農のきっかけを教えてください
僕はまったく父の農業を継ぐ気持ちがなかったんです。大学では建築を学んでいました。卒業時、就職難で大手の会社は採用がない、小さい事務所は倒れていくような時期でした。そこで篠山に帰ってきて「就職活動しなきゃいけないけど、まずは親父の農業でバイトでもするか」と手伝い始めました。
そして2 年目ぐらいから「これはいける、(本格的に農業を)やろうかな」と思いました。当時はお米の値段がまだ良かったし、お米をつくれば採算が取れていた時代に農業を始めたんですね。実は僕は稲アレルギーで、小さいころから稲の花が咲くころなどは、田んぼに近づくのがつらかった。だから自分が農家を継ぐなんて、自分でも思ってもみませんでした。


たい肥は自社製造。土づくりは大切。牛糞、米ぬか、もみがら、大豆かすなどから作る。

グローバルギャップ認定を受け、世界基準の農業経営管理を目指す

―現在作られている品目とこだわりのポイントをお教えください。
水稲、黒大豆、白大豆、小豆、山の芋、いちご、そのほかに観光農園、加工品の、企画・販売をしています。農業を始めた当時、圃場は20ヘクタール 弱でしたが、水稲と白大豆の面積を増やして、今では70ヘクタール あります。
弊社は平成30 年2 月にGLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)認定を受けました。
会社の経営管理体制を問われる世界基準の審査です。G.A.P.では、農薬の保管方法、残留農薬が出た場合の対処方法…250 ほどの審査基準項目があります。想定外のことを起こさないようにするのではなく、起こることを前提で物事をスタートさせるという考え方です。その基準を、ひとつひとつスタッフと相談しながらクリアしていきました。
国は各生産現場、食品加工現場に対して国際審査基準(G.A.P.やHACCP)に則っていくよう旗振りをしています。オリンピックの食材もGAP対応にすることで、普及のきっかけにしようとしていますが農業界の教育現場にGAPを取り入れればこれからの日本の農業は今よりもっと良くなると思いますよ。

グローバルギャップ(GLOBALG.A.P.)とはGOOD(適正な)、RICULTURAL(農業の)、PRACTICES(実践)のことで、GLOBALG.A.P.(グローバルギャップ)認証とは、それを証明する国際基準の仕組みを指します。世界120 か国以上に普及し、事実上の国際標準となっています。

参考:農林水産省「農業生産工程管理(GAP)に関する情報」
http://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/gap/index.html

農家のグループ化による流通拡大を篠山で

―今後の展望について教えてください。
まずひとつめは「流通の拡大」です。一生産者では出荷できる量に限りがあるので、大手流通者との商売ができません。できるだけ農業者をグループ化して取扱量を大きくしたうえで、大手流通者との取引をしていける体制を作りたいですね。実際に私は県内(姫路本社)で流通会社を経営しており、数千万円単位の取引でうまく運営できているので、その篠山バージョンを作りたいな、という気持ちがあります。篠山ブランドの米、黒豆、黒枝豆などを市内の農家でグループ化していきたい。もし、そこで「丹波」というブランドが良ければ、篠山市にこだわらず、京丹波町や丹波市含めて大丹波(京都丹波・兵庫丹波)でもいい。同世代の農業者が多いので、タイミングがあえば、ぜひやりたい。
もうひとつは「食育」です。例えば、管理栄養士を養成する大学の授業の中で、兵庫県内のいろいろな農業者が講師を務め、農業分野からの講義をしています。管理栄養士は就職先となる食堂・病院などの施設で、メニューを決める大きな権限を持っています。そのような人たちに地元の野菜を使ってもらいたいし、野菜の季節感や文化的な食生活のことを知ってもらいたい。野菜の旬はいつで、生産者はいつ収穫しているのか、スーパーに並ぶのはどのような野菜か、その理由などについて、流通の仕組みからお話ししています。また、地元の高校では、総合的な学習の時間や簿記の授業のひとつとして、篠山市でサラリーマンしながら農業するとどれくらいの収入があるか等、実際に取り組んでいる人間が具体的な内容を通じて、仕事の魅力を教えています。若い人に篠山で受け継いでほしいな、という気持ちで始めました。試行錯誤でやってます。

若手農業者のネットワークも篠山の「ブランド」

―農業分野における丹波篠山の『価値』について教えてください
篠山市の若手農業者のネットワークは県内でも一、二くらいのグループ力があると思います。農業者の能力も意識も高く、経営感覚もある。小規模農家から大型農家まで含んだネットワークです。自分たちで農産物を売るためにチームを作ったり、商談しに行くための企画づくりや、人脈づくりなど…他の地域だと農協さんや市役所がやるようなことを自分たちでやっているという自負があります。
ただ、篠山ブランドには危機感を持っているんです。これまで篠山の黒豆やお米には、すごく高い価値がついていたけど、今は他の産地もすごく頑張って質も高くなりました。
篠山産と他の産地のものの見分けが難しくなって来ています。でも今は「篠山産」と書いているだけで、2~3割高く取引されています。それがブランドなんでしょうけど、果たして消費者にきちんと評価していただけているのか…
ブランド名だけで購入されているのではないか。品質を高くするため、常に新しい技術を勉強して取り入れるようにしています。

新しい若い人が来て、農業を盛り上げてほしい

―新規就農を目指す人にメッセージをお願いします
ぜひおもしろい人に来てほしいです。僕は年代的にこれから画期的なことをするのは無理だから、新しい若い人が入ってきて、農業を盛り上げてくれたらいいなとすごく思います。兵庫県ではまだ少ないですが、他の県では、20 代後半や30 代前半の就農者で、5 年そこらで数億円の売上を上げている起業家がたくさんいます。彼らは今までの農業スタイルにこだわってなくて、運送、物流、飲食店も同時にやったりしています。それくらいおもしろい人が篠山に来てほしいな、と期待しています。
(2018 年9 月)