農業はじめの一歩12

農業はじめの一歩12

耕しや 阪東 佑貴(ばんどう ゆうき)さん
・現住所
丹波篠山市西浜谷281

・経営品目
水稲(コシヒカリ・イタリア米)、黒豆、黒枝豆、小豆、黒豆味噌

・経営面積
9ヘクタール

・公式HP
tagayashiya.com

・インスタグラム
tagayashiya

 

耕しや

丹波篠山の特産品であるコシヒカリや黒豆はもちろん、黒豆味噌作りやイタリア米の栽培にも力を入れています。収穫時期には親戚も集まって賑やかに作業をしながら「シンプルな家族経営の最高点」を目指して、昔の良さを大切にしながら今どきの農業経営の考え方も取り入れ「親子二人三脚」で頑張っています。

 

 

学ぶほどに農業のイメージが変化

小学校低学年の頃から、父がしている農作業を傍で見ていました。また家族や親戚が集まって農作業をワイワイする雰囲気が好きで、「農業は楽しい」という印象を持っていました。高校を卒業後、大学の農学部へ進学し基本的な農業の経営や、技術などを全般的に学びながら、稲穂一株あたりの収穫を増やす研究などをしていました。しかし大学で学べば学ぶほど「正直、農業って儲からへんな…」というイメージを持ってしまいました。当時は農作業を実際にしたことがないのにもかかわらずこう思ってしまったのです。同級生は公務員や企業への就職が多く、農学部でも農家になる人はほとんどいませんでした。私も地元に戻って一旦は就職しました。しかし「農業は好きやし、やってみたいけど自信が無い」という思いを持ち続けたまま年齢を重ねました。

 

 

父の夢を聞いて

そんな頃、父とよもやま話をよくするようになりました。その話は、早くに実父を亡くし20代から兼業農家をしていた父の、“早期退職し専業農家として暮らす夢”のための計画でした。「これくらいの農地を耕作したら、どれくらいの収穫になる、その為にこんな農業機械への投資が必要になる」と、経験に基づいた現実的な計画をいきいきと話す父。それを聞くうちに「俺も農業がやりたい!」と思うようになり、父にその思いを伝えました。「ちょっと待て!俺のプランが!」と最初は戸惑っていた父でしたが、自身の早期退職を考え直し、そこから定年を迎えるまでの5年間、私が先に農業を始め専業農家のベース作りをすることにしたんです。私自身もアルバイトをしながら少しずつ農地を増やし、技量を身に付けていきました。とは言っても一から全ての農作業をしたことはなかったので、「これでええんかな〜」という感じの繰り返し。管理が上手くできなくて稲が倒れるなど失敗もたくさんしました。それでも父は責めることなく付き合ってくれました。父には本当に様々な部分でサポートしてもらったので頭が上がりません。

 

 

兼業農家から専業農家のスタート

技量もついてきて、スムーズに仕事が周りはじめ、売り先も安定し、自分たちの育てた物が「美味しい」と言ってもらえるようになり、「農業はおもしろい」「農業をしてよかったな」と思うようになっていきました。「食べた人の生きる原動力になっている、人の生命に欠かせないものを作っている」と自分たちが役に立っていると感じることが嬉しいです。
また加工品にも力を入れており、全て耕しやで生産された材料を使った味噌を作っています。耕しやの経営の一役を担う商品で毎年約1.5トンを仕込みます。農閑期である冬場に仕込み作業をし、通年仕事があるようにしています。
農業経営は企業経営と同じで、何か特化した商品がなければ難しい時代です。品質はもちろん、味にもこだわりを持って美味しいものを広めたいと考えホームページも活用しています。閲覧してくださったお客様に納得してもらえる商品を揃えていくことも大切だと思っていて「ここに来たら、あれもこれも買える」と満足いただけるサイト(耕しや https://tagayashiya.com/)を目指しています。また、作物の生育状況や作業風景をSNS(Facebook、Instagram)でアップし、親しんでもらえる努力をしています。

 

 

新たな取り組みのタイミング

今まで通りのやり方だけではなく、いろいろな柱となる考えをもってバランスよく経営していく必要性は、農業にも求められています。
2020年は、市内の有志農家さんと「B.B. LINK(ビー・ビー・リンク)株式会社」を立ち上げました。丹波篠山の特産品である黒枝豆の販路拡大を目的のひとつとしており、大手百貨店やスーパーチェーンへ卸しています。
その他に、耕しやの取り組みとしては、日本ではあまり作られていない“カルナローリ”というイタリア米を栽培しています。これはリゾットに適したお米で、太くて長く、パスタのアルデンテのように芯を残すことができるお米です。美味しく調理するには少しコツが必要ですが、ご家庭でも手軽に食べていただけるように地元のイタリアンのシェフと試行錯誤しながら、リゾットキットの開発に奮闘しています。

 

 

先人の恩恵を受けている丹波篠山での農業

「丹波篠山」のブランド力は強く、他の地域と比較して優位に販売できる地域です。これは、昔から農業に携わってくださった皆さんのおかげであり、感謝の気持ちを持つと同時に守っていかなければならないことだと思っています。後世に引き継いでいくためにも、様々な努力が必要だと感じています。
また、農業は地域で取り組むもの、「村のお付き合い」もそのうちのひとつです。新しく就農される方には、「地域と共に歩むのが農業」だと言うことを知っておいて欲しいです。

 

 

自分の育ってきた環境を我が子へ

丹波篠山市に戻ってきた理由の一つに、「子育て」があります。私たち夫婦は、おじいちゃん、おばあちゃんがいる環境で育ったので、自分たちが子育てする時にも「家族みんなで子育てする環境」が良いなと話していました。子供の頃、田んぼの畦で農作業をする家族から「おかえり〜」と声をかけてもらう環境はなんとも言えない安心感がありました。だから、私たちの子どもにもその安心感を与えることのできるような環境を作りたかったんです。そして3世代の人間関係の中で暮らすという環境は、心の成長に繋がっていくと考えています。
私は家族と過ごす時間を大切にすることを働き方の基本としました。「毎日顔を合わせ、ご飯を一緒に食べ、お風呂に入って、夜も一緒に居ることができて幸せだな〜」と、感じることが私の原動力になります。この暮らし方を守るための仕事のサイズ感を重視しています。

 

 

丹波篠山市で就農を考える皆さんへ

いきなり就農するのは大変だと思うんです。新規で就農を考えている方は特に、始めた時点で設備投資やら生活費で、「ゼロ」ではなく「マイナス」からのスタートになることもあります。そこをどう乗り切るか、しっかり考えて進めていかないと難しいと思います。
農業は起業することと同じ。最初は苦労が絶えません。経営計画をしっかりと考えることが重要です。資金的なこと、何年目にはどれくらいの面積を栽培し、どれくらいの収入を得るのか。そして、どんな人生を歩んでいきたいのか。自分を見つめることが大切だと思います。
わからないことを聞ける人脈作りや機関(先輩農家、市、県、JAなど)とつながることや、受けられるサポートを取りこぼさないようにアンテナを張ることも大切です。確実にステップアップしながら、軌道に乗せることが大切です。

 

(2021年3月)