農業はじめの一歩11

農業はじめの一歩11

中末農園 中末 智己(なかすえ ともき)さん

・現住所
丹波篠山市大山上1175

・経営品目
有機野菜約30品目(玉ねぎ・じゃがいも・人参・葉物・黒豆等)

・経営面積
1.5ヘクタール

・インスタグラム
nakasue_nouen

 

「自分が消費者だったらこういう野菜が欲しい」と思うモノを作ろうと、丹波篠山でオーガニックにこだわった農業を始めて約20年。遺伝子組み換えのものは使わず、食物由来の肥料を用い、消費者さんのこだわりにも応えられるモノを提供していけるよう頑張っています。

 

心と身体が健康になる野菜を作りたい

まず私は農業を始めたいと考え、丹波篠山で活動される“丹南有機農業実践会”に2〜3年通いながらお手伝いをさせてもらいました。また他の地域でも農業の勉強をしながら、「自分のイメージする農業ができる場所」を求めて丹波篠山に落ち着きました。そこから農業をはじめた最初の3年間は農作物が上手に育ったり、そうかと思えば虫食いだらけになったり、と成功と失敗を何度も繰り返していました。収入が安定しない冬季などはアルバイトをしながら生計を立て経験を積んでいきました。
現在ではオーガニックの栽培技術が確立されて、ある程度の面積でも安定して栽培できるようになりました。またオーガニックについて様々な情報を得ることができますが、知識ばかりでなく労働の耐えられる身体と農業に対する想いを持ち続けることが必要になると思います。ときには朝5時から夜の12時まで作業をする大変な日もありますが、そんなときほど作物や土に触れながら“やりがい”を感じます。それは、「知識と体力と信念」のバランスが取れているからこそ続けてこられたのだと思います。

 

オーガニックよりも大切なこと

20代の頃はゴルフ場に務めていました。防除作業後の夜にはとても体がだるくてしんどいときがあり、そこから農薬について勉強し始めました。私の野菜づくりには農薬を全く使用しませんが、一般的に野菜作りに使われる農薬は、基準を守って使用すれば残留農薬は少なく、安全性は高いです。ただ農薬を使うことで虫も耐性を持ってきて、次の農薬を使うことになります。僕はそれを繰り返すよりも、土壌本来の力や生態系を活かし農薬とも上手く付き合っていくような農業ができないかなと思っています。

そして何より、作り手の人柄が野菜の味に出るんです。食べる人が「ホッとするな」、「美味しいな」と思ってもらえるものを作ろうと心がけています。どんな農法をするのかではなく、作り手の思いを届けることが大切だと感じています。自然の恩恵を受けて、感謝の気持ちをもって野菜づくりをすることが大事なんです。作物を育てる事と人を育てることは似ていると思います。いつも心がけているのは、常に野菜の力を最大限に引き出すために、どうやってお手伝いすれば良いのかを考えながら作業をします。“オーガニック”だからではなく“美味しい”からまた食べたいと思ってもらわないとお客様との良い関係は続かないと思っています。

 

 

理想の野菜販売は振り売り

就農して安定した野菜作りができるようになった頃から、量販店にオーガニック野菜の出荷を始めました。生活はもちろん、農業計画を立てる面でも資金が必要ですから、本当に助かりましたし、今でもその取引は継続しています。また5〜6年前から、オーガニック野菜が欲しいと声をかけてくれる“一般の家庭”や“飲食店”のお客様との取引が増えてきました。「子どもが野菜を食べられるようになった」、「こんな野菜が欲しい」などのお客様の反応を直接感じることができる会話からすごくやりがいを感じます。それは例えば、京都の得意先を訪問して売り歩く「振り売り」の現代版のような仕組みで、僕の野菜を通じてお互いの理解を深めながら信頼関係を築いていけます。この信頼を壊さないように新しい技術を取り入れながら、作業し努力を続けていこうと思っています。

 

農業に触れられる環境

僕の農場へは、農業に興味を持たれる方が週末になると様々な地域から手伝いに来てくれます。農作業をしている時はしんどいですが、合間の休憩で会話を楽しみながらホッとしたり、お土産に野菜を持って帰ってもらうなど、ゆったりとしたコミュニケーションを生む場所になってきています。その中から「いずれは真剣に農業を始めたい」と言う方が出てきたらサポートしたいです。

新しいことを始める時、失敗を恐れるあまりに何も行動できないことってありますよね。でもそこからもう一歩踏みだして就農を考える方と地域を繋げることができないかと考えています。約20年の間に丹波篠山でお世話になり、地域の方の気持ちも少しずつわかるようになりました。その一方で移住者である立場、都市部で生活する方の考えも理解できますので、自身の蓄積した知識と経験などを共有するそんなハブのような役割も兼ねている場所になりたいとも考えています。またそういった人の繋がりが地域を継続させるヒントがたくさんあるとも思います。何かを変えることは大変だと理解していますが、いろんな課題を重く考えるのではなく、いかに楽しむかを考えることが大切かもしれません。

 

丹波篠山で就農を考える皆さんへ

栽培技術を身につける時に農家さんへ行かれると思うのですが、農家さんもお忙しいですし、日常の作業に追われ技術を身につけることがなかなか難しいかもしれません。それでも技術を身に着けて美味しいものを作れば、自然と販路は開けていきます。ですから自身がどのような農業をしたいか考え、勉強に行く農家さんをしっかりと選ぶことも大切で、研修先を探す段階から就農への道は始まると思っています。また、考え方を決めつけるのではなく柔軟な考えが必要で、相手の意見を受け入れるべき場面もあります。農業は、自分に合った形態が取れて、自由にプランを立てることができるところがいいです。自由な反面、売り先とかは自分で開拓する必要があります。大きな夢を実現させるためには、小さな一歩の積み重ねも必要です。何をしたいのかを見つめ直せば、迷ったりすることはないと思いますよ。