酒井菊代さん

農業はじめの一歩3

兵庫県女性農業士

酒井農園(丹南有機農業実践会) 酒井 菊代(さかい きくよ)さん(64歳)

 

丹波篠山生まれで農家の家に育ち、有機栽培を初めて45年。農業において女性の立場の確立や有機野菜を通じて後継者の育成、在来種の保存等多方面で丹波篠山の農業と向き合って頑張っています!

・現住所
丹波篠山市油井

・経営品目
有機栽培(水稲、野菜30品目以上)

・経営面積
140a

・運営組織について
設立45年目を迎えた「丹南有機農業実践会」のメンバーの1人として、主に阪神間の消費者に向けて、販売・発送(パック野菜)をしています。

跡取り娘として育てられましたが…

跡取り娘と言われて育てられましたが、小さい時から農作業の大変さは目にしていたので「農業は絶対するまい!」と思っていました。父の許しもあって、保母資格の取れる地域の高校を卒業し、京都で保母さんになりました。1年半務めて篠山に連れ戻され、公務員の主人と結婚し、子宝に恵まれました。その頃父が、畜産の堆肥の問題からそれを肥料に農薬を使わない農業を始めました。乳価が下がり始めたこともあって、有機に移行しようという時代でした。そして今から45年前に「丹南有機農業実践会」が発足しました。

「有機野菜が必要とされている!」と知った衝撃

子供が2歳の時、風邪をこじらせて入院した時のことです。小児病棟に通いだし、食物アレルギーを持つお子さん、それも「これを食べたら死ぬんです。」というようなお子さんをお持ちのお母さんたちと沢山出会う機会がありました。「無農薬野菜を探しているんです!」と切実に訴えられ、そこで初めて、うちのお父さんはすごいことをしていると知りました。私の意識が変わったのもそこからです。この人達のために、私は力になれると思いました。化学肥料や農薬の怖さは知っていました。農薬をまいた日に母が寝込んでいたのは、それが原因だということもわかりました。

「うちの子は、この野菜が好きだから作って欲しい」など、お互いに子供をもつ母親同士が意見を言い合って切磋琢磨していきました。有機野菜は手間と費用がかかります。天候などで上手にできなかった野菜も引き取っていただくお願いをしました。こちらから価格の相談や同じ野菜を飽きないように食べてもらえるようにレシピの提案を持ちかけたりしました。形の揃わない野菜であっても理解して購入していただける消費者さんとは、顔が見える生産者としてだけでなく、もっと深いところで繋がっている「信頼関係」が築けました。

阪神淡路大震災の影響

原則として土付きで販売していたものが、被災地では水がないので洗って出荷しなくてはいけなくなりました。それは作業の上で、大変な労力負担になります。また、洗うことで鮮度が落ちることもあります。昔は新聞紙で包んで出していましたが、曇らない袋に入れて根を切って出荷しなくてはいけなくなりました。土付きの野菜はマンションでは販売できないなどの基準も変わり、有機野菜にとっては辛い条件です。何より震災の影響でお客様が減りました。

消費者の皆さんにわかって欲しい

農薬の怖さも、その理由を知って怖がって欲しいと思います。ただ怖いのではなく、どう影響を受けるのか…伝えるのは非常に難しいです。海外では使ってはいけない農薬を日本は使っているのですよ〜と説明します。また私は、有機JAS認定をとっています。今まで有機でやってきているのに、JASマークを外した時点で普通の慣行野菜と同じだと国から言われるのは、今までやってきたこと、自分の人生が全否定されたようで許せませんでした。「丹南有機野菜実践会」は、国の取り組みより先に有機野菜栽培に取り組み、農薬・化学肥料一切なしとJASより厳しい基準の中でやっています。その縛りがないと、組織として継続し成り立たせていくことはできないと思います。市外の消費者さんがその価値を理解して買ってくださることは、本当にありがたいことだと思っています。しかし一方で中国は、村全体で有機農法に取り組んでJASマークを付けて日本に輸出しています。日本の検査機関が中国に行って検査をしたら日本のJASマークを付けて販売できるのです。空輸にしろ船にしろ、鮮度やその他のことも気になりますがJASマークは付いていますので、日本国内で高価格で販売できます。何とも不思議なことです。購入されるときは日本のJAS認定でも産地をご確認下さい。

地元で育ったからこその思い

地元ならではの「心持ち」があります。先祖から受け継いだ農地はもちろん、ある意味地元を背負っている責任があります。「守る」という思いは、地元の者にとっては今後の大きな課題とも言えるでしょう。農業でも高齢化が進んできました。今後、その農地を次の世代に引き継いでいくために「篠山自然派」を立ち上げ、活用していこうと思っています。「篠山自然派」の会を通じて、色々な方にお出会いできる機会があります。知らない話を聞くことや、人と繋がっていく楽しさを実感できることは素晴らしいし、本当に勉強になります。有機で新規就農の移住者さんが「篠山自然派」のメンバーに加わり、それはそれは見事な野菜を持って来られます。丁寧に作った野菜は、畑に行った回数がわかるんです。そういった方々に長年有機で取り組んできた農地をお願いする事を考えています。色々な方々と繋がらないことには、今まで守ってきた有機の畑を守っていけないのが現状です。

有機農法で就農は本当に大変ですよ!

同じ作物が同じようにできることは、有機農業ではありえません。肥料の効き方も違えば、それぞれの個性があって当然です。夢を見るほど虫取りをします。成虫を見たら負け。卵、幼虫の間に取る。ひどいときは、被害が広がらないように、木から抜く。長年の経験から学んだことです。有機農法で毎年決まった収穫が得られることは、本当に難しいことなのです。私は、主人が公務員でありつづけていてくれたからこそ、有機農法を続けてこられました。酒井菊代の作る有機野菜を信用して買い続けてくれた消費者さんにも支えられています。「丹南有機農業実践会」は色々な研修会に参加させてもらい、学びを与えてくれたことに感謝しています。県や国の有機農業会にも入り、組織で取り組むことで情報が入り、実践に結びつけていける強みを感じました。有機野菜の販売も急速な流れで変化していますが、長く続いているのは、様々なつながりの中で継続できたのだと思います。

それでも有機農法がやりたい方へ

とりあえず丹波篠山に住んで、小さい面積から始めて下さい。そして販路を確立させてから、作り始めてほしいです。作ってからでは、間に合いません。自分を信用して、どんなものでも買ってくださるお客様を確保してからでないと進めません。また、1つの品種だけではお客様は満足されません。最低5種類の品種を商品として収穫する事、土作りも含めて5年はかかります。その中で土も変わるし、自分の技量も上がります。買い支えてやろうというお客様とお客様のために作らせていただくという思いの生産者との立ち位置が確立できないと、有機での生業を続けるのは難しいです。生活の中に有機を組み込み、冬は暇だから味噌を作り、落ち葉を集める、そういった生活の一部にすることも重要だと思います。せっかく始めていただくなら、5年頑張って良い野菜のできた時の嬉しさや喜びを味わっていただきたいですね。続けるためには、大変さを笑って楽しめるようにならないとやっていけません。その中でお客様との信頼関係を築いていけます。この丹波篠山に移住して頑張ろうとする人を、大切にしたいと思います。また、自分の家族にも他の方にも、自分の取り組んでいる姿は、包み隠さず見せていきたいです。もがいているところしか見せられないかもしれませんが、現金収入は大事であることも言い、有機を生業とする難しさと楽しさを一緒に伝えていきたいです。丹波篠山の小さな農家さんの生き残り方を一緒に見出していきましょう。女性農業者さんのご相談もお待ちしております!

(2020年2月)