Classo2017教育特集・vol.2 「地域ぐるみで子どもの教育を考えるまち」。ハジマリの一歩目。

農村の、新しいキャリア教育??

田舎に移住して、子育てをしたい。そんな想いを持って篠山市へ移住してこられる方たちもいます。自然の中でのびのびと子どもを育てながら、健やかに育ってほしい。そう思いながら、「市や県として・学校教育の現場ではどのような取り組みをしているか?」も気になるところです。

今回ご紹介するのは、兵庫県主体のビジョン委員会という県と地元の有志で地域活動を行う委員会で、民間から「キャリア教育」の充実に向けて活動をされている団体「夢ジョッキー」と、代表の細見勇人さん。細見さんは篠山市で生まれ育ち、大学生の時は奈良に住んでいましたが、社会人になってから実家の家業を継ぐためにUターンをしてきました。そして、現在二人のお子さんと4人家族で篠山市に暮らしています。

ちなみに「キャリア教育」って何でしょうか?

文部科学省のHPを見ると

“「キャリア教育」とは、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」である”

とされています。特定の活動や指導方法に限定されず、様々な活動を通して実践されるものという記載もあります。

少し噛み砕いて、篠山市で具体的に細見さんが現在されている活動をご紹介します。細見さんは実際の教育現場(篠山市やお隣丹波市の高校)へ色々な生き方や仕事をしている大人たちを連れて行き、高校生が大人の話を聞いたり、相互にコミュニケーションを取り合う「夢ジョッキー」という場作り(授業)をされています。

“僕は、別に「何が正しくて何が間違ってる」なんて無いと思っていて。高校生で落ちこぼれだった人で成功してる人だって、ゴマンといるでしょ?社会人になるとそういう人に出会う事もたくさんある。そうした大人に出会うと、一番大事なのは、「生きるスタンス」だなあと思うんですよ。何を大事に、自分自身の未来を選択しているか、という事かな。それを高校生の時に知る機会があったら面白くないですか?”

自分自身で人生を選択する、この醍醐味を伝えたい

“僕、実は大学に入学して1年で退学してるんですよ。 大学の授業に行って、単位のためだけに授業を聞いてテストを受けてお金を払ってる事に意味があるのか悩んで。その時に働いていた人力車のバイトに専念する為に、親父に無理言って大学を退学したんです。”

なんと篠山市を離れて入学した大学を1年で自分から辞めてしまった細見さん。その当時のアルバイト先で人生において大事な事を多く学んだそうです。

“人力車の仕事って、ただお客さんを乗せて観光地を案内するだけじゃない。どういう声のかけ方で、どういう話でお客さんを楽しませるか。そしてどうやって価値を提供してお金を頂くか。色んな要素が詰まっているんです。しかも、人力車の営業時間が終わって夕方に帰ってくると、先輩が後輩に、どうやって売上を伸ばすか、お金は人に必要とされてる分だけ入ってくるって事を数時間にわたってディスカッションするんです。毎日ですよ。笑 僕は、営業の全てをそこで学ばせて貰いました。”

結果的に大学を辞めて本当に良かった、と話す細見さん。自分で選択した事だからこそ、辛く苦しい事があっても挫折しても、誰より一生懸命学び、充実した日々を送っていたそうです。そして自分が仕事先で先輩になり、その時学んだ事を後輩や誰かに伝えるディスカッションの時間は、細見さんの中の「自分が貰ったきっかけを誰かに与えられるような人間になりたい。」という思いを強くしていきます。

地域の「教育」に関わる

そんな思いを、Uターンして家業を継いで忙しく仕事をこなす中でもずっと持ち続けていた細見さんですが、ある事をきっかけにその思いは現実の活動になっていきます。

“知り合いに、高校の先生をされてる方がいたんですね。その先生に「実はこんな思いを持っていて」という話をして。授業させてもらったりできませんか?とダメもとで聞いてみたんです。そしたら「是非やってください」ってすぐに返事をもらえて笑”

細見さんはこれが、田舎のいいところだと言います。普通都会で民間の大人が学校に入ると言うと、どうしても「危ないのでは?」「何か問題が起こったらどうする?」という不安がよぎります。ですが、人口の少ない農村部では、「先生や、学生の親や親戚を辿ると、大体知り合いかお客さんだったりするから、変な事できないし、先に信頼関係があるんですよ。」と細見さんはおっしゃいます。

“本当は、地域の大人が当たり前のように学校に入って行って悩みを相談したり、話を聞いたり、一緒に地域の事を考えたりすることが理想だなって思うんです。近所のおっちゃんでもいいんですよ。でも近年、都市部では色々な痛ましい事件もあったし、しょうがないと思うのですが社会が学校と大人を遠ざけてしまっているのかな、って。”

知り合いの先生に言ったひとことから、細見さんの活動が始まっていきます。そして、活動を始めた事で細見さんはたくさんの新しい気づきを得る事になります。

大きな改革ではなく、今足りないものを少しだけ、足していく。

最初の授業から、3週間連続で授業を行った細見さん。3回目は学校からの認可ももらい、正式な授業として取り組みを受け入れてもらっていきます。細見さんは実際に授業や、教育現場に関わってみて気づいた事がありました。

 

“学校で授業をして、先生たちと直接会って話したら、ああ、先生ってこんなにも必死で悩んで、生徒の事を考えてるんだなって思ったんです。自分が思っていた以上に、熱心に真剣に考えていらっしゃって。その時に、先生が立場上子どもに言えない事があって、その足りない部分を民間の自分たちが子どもに伝えていくのは重要なことなんじゃないかな、って思ったんですよね。”

 

実際の教育現場に関わった細見さんは、今先生たちが一生懸命やってくれていることを否定するのではなく、自分たちができることで、先生たちができないことを足していくことこそ本当に重要なことではないかと思うようになったそうです。3回目の授業で細見さんは、こんな質問を高校生にしてみました。

 

“学校だるい、って高校生言いますよね。まあ自分も高校生の時言ってたと思いますが笑 それで、明日から学校来なくてもいい、来なくても未来が約束されてるとしたら、今すぐ学校辞める?って質問してみたんです。笑 そしたらみんな手をあげなかったんですよ。だったら、学校を辞めないって選択をしたなら「自分で決めてこの学校に来てるんだ、意味があるんだ」しんどくてもだるくてもそれでも自分で選んで学校行ってるって言おうよ、その方がかっこええでしょ?って話をしたんです。”

 

普段接する、先生や親以外の大人からの率直なメッセージを、高校生たちは真剣に聞いていてくれたそうです。 この授業の後、県民局が企画する地域ビジョン委員に応募し、夢ジョッキーグループを立ち上げた細見さんは本格的に地域の高校へ授業をさせてもらう為の活動を開始することになりました。

”僕たちの授業で何を感じ、何を想い、何をするかはその子次第だけど、今思う夢が全てじゃない事、夢はゴールじゃなく社会の入り口にすぎないんだって事、自分で選んでいけばどこにだって行けるって事、そんな事を考えるきっかけになってくれれば嬉しいなと思う。”

と細見さんは語ります。 最初は丹波市の一つの高校から始まった夢ジョッキーの夢授業は三年を経た昨年2016年には、篠山市の二つの高校でも行われることになりました。 他にも、直接授業に来れない周りの大人たちにも関わって欲しいと、自身のfacebookを用い、アンケートで高校生から集まった質問に答えてくださいという投稿をし集まったたくさんの大人の答えを冊子にして配布する活動などもおこなっておられます。

学生に贈る、「大人たちのきっかけ」ハジマリライブラリー

民間からできる、学校へ少し足せること。細見さんは2017年から新たな活動をスタートします。「ハジマリライブラリー」という名前をつけたその活動の内容は、色々な大人の高校生へのメッセージを取材して、学級通信程のサイズの紙にして全国の先生方へ配るというもの。こんな生き方をしてる・仕事をしてる大人がいるんだ、という事を知ってもらうこと、そしてHPにはもっとたくさんの大人たちの活動を集約したWEBメディアを構築していきます。

 

“どの人のエピソードを使ってもらうかは、先生の判断にお任せ。先生がピンと来た人でいいと思う。高校生にとって第三者の大人が「こんなかっこいい生き方してる!」というのを知る機会があるって、楽しい気がするんだよね。”

 

篠山市から、ハジマリライブラリーの輪がどこまで広がるかも楽しみですが、活動が始まったこの篠山市には、定期的に学生と情報交換をしに来る大人たちがいます。「地域ぐるみで子どもの教育を考えるまち」。それは人と人が近い農村部だからこそ成せることかもしれません。もし気になった方は、細見さんと一緒に地域で子育てを考える「ハジマリ」にしてみるのもいいかもしれないですね。